【皇室見聞録】お召し列車と宮廷ホームは、一般国民でも利用できる?


監修/稲生雅亮・小内誠一

宮廷ホーム

天皇・皇后が鉄道旅行するときには「お召し列車」がでる。新幹線は東京駅から出発、それ以外の列車は「原宿宮廷駅」から出発する。これは皇室専用の駅であって、一般人は立入り禁止である。かつては御用邸や多摩陵などへの行幸の際利用されたが、近年ではほとんど使われていない。最後に利用されたのは2001年5月のことで、その後は事実上の閉鎖状態が続いている。ごくまれに一般開放されるため、「観光地」としてならば一般国民も利用可能だ。

原宿宮廷駅

このすっかり利用されなくなった「原宿宮廷駅」は、JR山手線の原宿駅から代々木駅の方へちょっと歩いた場所にある。JRでの呼び名は「原宿駅側部乗降場」。ホームのほか、車寄せ、待合室などががあり。建造は大正15年、そもそもこの駅は、大正天皇が葉山や日光田母沢の御用邸で病気療養するために造られたものである。

風変わりなのは普通の駅にくらべてプラットホームが低いこと。ステップのついた昔ふうの客車乗降口に合わせて設計されたからで、いまの車両だと乗降に不便である。そこで、手すりのついたスロープを客車入口に渡し、それを使って乗り降りをする。

いまある宮廷駅は、この原宿宮廷駅だけ。かつては他に数か所の宮廷駅があった。

その一つ、東浅川駅はJR中央線の高尾駅(旧浅川駅)と西八王子駅の中間にあった宮廷専用駅。造営は昭和2年で、大正天皇大喪儀のさい、お棺を乗せて新宿御苑の仮駅を出発した列車が到着したところである。現在の高尾駅前の銀杏並木の道をまっすぐに進み、甲州街道を越えると、そのまま多摩陵の参道に入る。昭和37年に廃止され、駅舎は八王子市に払い下げられた。

東京駅には、戦前、皇室専用の通路とプラットホームがあった。専用通路の入口は赤レンガの駅舎中央。天皇が利用するときには、通路入口から列車乗降口に至るまで赤絨毯が敷かれた。途中には天皇・皇后のために松の間、皇太子用に梅の間、その他の貴賓用に竹の間という休憩所があった。松の間には天皇専用の玉座があり、シャンデリアが吊られていた。

かつて皇室専用口として利用された東京駅中央入り口
東京駅の皇室用通路

東京駅の皇室用待合室

東京駅は、昭和20年5月25日夜に米軍の空襲を受け、外壁を残して全焼した。戦後再建されたものの、GHQの管理下におかれ、常設の専用ホームも廃止。赤い絨毯も敷かれなくなった。ただ、昭和27年4月に対日平和条約が発効してからは利用時にのみ特別ホームを設け、そこに総理大臣をはじめ閣僚が並んで見送るようになった。

いまはもう、特別ホームを設けることもない。ただ、通路だけは貴賓用入口から新幹線ホームまでの特別通路がある。その通路を東京駅長が先導する。

忠臣「JR」のやせガマン

天皇を乗せて走る一般の鉄道列車のことを「お召し列車」という。在来線を走る列車には、これとは別に特製の「ご料車」がある。これまで何代か経ているが、いずれも車体の横に菊の紋章が入り、内装も西陣の絹織りを張るなど超豪華。最初の専用の御料車は、明治9年(1876)に製造され、翌年2月5日京都神戸間開業式の際に使用された木製二軸式車両で、のちに初代「第一号」と呼ばれた。現在は埼玉県さいたま市ににある鉄道博物館に展示されている。

現在使われている「お召し列車」は、2007年に登場した「なごみ(和)」だ。この列車は「お召し列車」専用ではないため、ツアー旅行などで一般国民も利用することができるが、天皇皇后両陛下らが利用する「特別車両」は連結されない。

お召し列車「なごみ」

天皇が関西など地方に行くときには、新幹線を使う。新幹線には「ご料車」がない。作ろうという話は旧国鉄時代から何度か持ちあがったのだが、結局見送られた。防弾ガラス仕様のグリーン車が代用される。

天皇の乗る新幹線は、通常の車両を臨時列車に仕立てて走らせる。特別にダイヤ変更はせず、通常ダイヤの中をぬって走る。

天皇・皇后はむろんグリーン車の中央に座る。座席を一っはずしてテーブルを入れる。真ん中あたりの座席に天皇と皇后がすわり、同行する宮内庁長官や侍従、女官、侍医らが同じ車両の少し離れた席にすわる。天皇の乗った車両のことを「御乗用列車」と呼ぶ。

JRには「お召し列車運転等手続」「お召列車運転の手引」「お召列車の運転について」などと呼ばれる細かい内部規定がある。お召し列車が利用されるたびに行程にあわせて細部を調整したマニュアルが職員らに配布される。その中には「乗務員はお召し列車乗務記章を左胸につけるものとする」「発車のさい発車ベルを鳴らしてはいけない」「平行する線路を同方向に運転する列車は、お召し列車に並列しないよう、速度を調整しなければならない」などの規定がある。

昭和63年9月に配布された「お召し列車運転等手続」

平成の大嘗祭が終わったあと、時の天皇・皇后は、神武天皇陵などに無事終了を報告するため、関西に向った。

このときの列車は、臨時のひかり309号。一般のひかりと同じ16両編成で、ぜんぶ貸切り。天皇・皇后の乗った車両以外にも、宮内庁職員や皇宮警察官、報道関係者が合計で150名程度乗ったが、もちろん全体としてはガラガラ状態。

ガラガラなら短くしたらどうかという声もあったが、ひかり号の場合は永久連結方式をとっていて切離しが難しいことと、やはり「見栄え」も悪いだろうということで、正規の編成を崩すことはなかった。

さて、気になるのは賃貸料金。国鉄時代には無料規定があって、全車両貸切りでもタダだった。JRになってからも、会社側では「お乗せするのが名誉」と言ってタダを主張する。そうもいかないので、宮内庁は「相当分のお礼」をしている。

通常の旅行でひかり号の16両編成を東京から京都まで借り切ると、2千万円程度の料金だというが、「相当分のお礼」とは乗車した人数分の運賃をいうらしい。150人乗ったとして、だいたい200万円くらいの計算である。

参考資料:皇室事典編集委員会『皇室事典——令和版』角川書店、2019、稲生雅亮 『そこが知りたい! 皇室探検』新森書房、1993


8件のコメント

御用列車の運行は、ダイヤを計算するJR技術者の方々の腕の見せ所なのだとか。
御用列車の上を立体交差できないので、上側線路に電車が通らない時間帯を綿密に計算する、と聞いたことがあります。

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全燃してしまったかつての『皇室用通路』『皇室用待合室』のモノクロ写真掲載,ありがとうございました。

そうそう,両陛下が東京駅から入り口まで歩く画像を見ると,奥の大きなドアから駅長さんに誘導されて出ていらっしゃいますね、
皇室用の原宿駅ホームも 線路からよく見えます。

一つの風物詩?ですが,掲載ありがとうございます。

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不快な嫌悪感満載の皇室ニュースが多い中こういう記事良いですね。

面白く拝読させて頂きました。

次の豆知識?記事楽しみにしています。

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皇室のいろは⁇的な、知らない事を色々と教えてくださりありがとうございます。
原宿宮廷駅というのですね!!
3年程前になるかな⁈
1月2日に娘と原宿へ買い物に出かけた時、初めてこのホームに降り立ちました。道が明治神宮に続いていました。
多分初詣客が多くて臨時駅として使われたものと思われます。
滅多に体験出来ない貴重な経験でした。

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間違えました。
原宿駅はオリンピックに向けて改装したので、三が日用だったホームは今年から普通に通常の外回り用ホームになりました!

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あ、そっちじゃないです。明治神宮に続いていて、三が日だけ開かれる山手線のホームではなく、新宿駅寄りの、ほぼ道路側にある貨物用線路にあるやつです。たぶん誰もあれがホームだと気が付いていないと思います。文中にもありますが「プラットホームが低い」ので。

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ほのぼのコメントにまで、意味不明の下げポチ。

本当に根性だけでなく、頭も腐っているんです
ねえ。

違うミンジョクなのでしょうか?

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ABOUT US

稲生雅亮
元時事通信社編集委員、宮内記者会会員。明治大学卒業、時事通信社東京本社入社。大阪、千葉、岩手など地方支社局勤務の後、昭和48年本社に、同年宮内庁担当。昭和52年編集委員に。平成8年退社まで宮内記者会会員。昭和天皇崇敬会会報『昭和』に定期執筆。そのほかに、人物往来社や秋田書店などの皇室専門書を執筆、テレビの皇室特別報道番組、新聞、雑誌座談会など活動は多岐にわたる