天皇も「サービス残業」するのか?【皇室見聞録】


監修/稲生雅亮

天皇の仕事にも残業かある

天皇陛下は午前9時30分には、表御座所の御車寄せに到着する。それから「菊の間」で書類にサインをしたりハンコを押したりする。現在は皇居・改修工事中のため、赤坂御用地で仕事をこなされることも多い。「松の間」を使用する重要儀式のときのみ皇居・宮殿に向かわれる。火曜と金曜に閣議があるので、両日は決済する書類がどんとやってくる。

昼から2時までは昼休みで(場合によっては赤坂御所まで戻り)食事などをする。それからまた出勤して、執務をとる。やり残したものは、御所に持ち帰って仕上げることになる。天皇陛下もサービス残業するのだ。年間で1200件以上の書類をさばく。

陛下はほかに春秋合わせて4回、宮内庁の課長以上と食事をともにする。国際情勢についての説明を受ける(ご進講)のが月に2回、日銀総裁から年に1度、国際情勢のレクチャーがあり、各省庁次官クラスのご進講も定期的にある。

赴任する大使夫妻、帰任する大使夫妻にも必ず会う。日本にやってくる外国の大使・公使からの信任状奉呈式もある。これに時折、大臣クラスから帰朝報告を受けたり、認証官の紹介を受けたりすることが入る。

1年のスケジュールとしては、植樹祭や国体への臨席がある。極めてハードスケジュールで、宿泊は3泊4日から、近年は隣接県へも足を延ばし4泊5日になるケースが多い。

国体は冬季、夏季、秋季大会とあって、この時ばかりは両陛下だけでなく他の皇族も狩り出されることになる。というのは競技ごとに会場が異なっていて、それらすべてに顔出しをするからである。

特に盛りだくさんなのが秋季国体。バスケットボールのように会場がいくつもに分かれる競技では、会場ごとに皇族が出席する。だいたい―つの会場は30分ほどで切り上げて、次の会場に向かうことになる。けっこう忙しい。ブラック企業も真っ青なハードスケジュールだ。

国体には“国体効果”というのがあって、天皇が臨席するので、会場までの道を整備するなど、波及効果が大きい。

植樹祭は春から初夏にかけて行われることになっている。開催地はその都度、違えている。最近、ある県で植樹祭の会場をつくるのに、山を禿山にしたという笑えない話があった。陛下が台風などで行けないときは、皇居で木を植え、それを移植することで代替している。

天皇のサインは名前だけ

宮殿で儀式用に使われるのが「松の間」などの表の部屋で、天皇が執務をするのは宮殿裏側の表御座所棟「菊の間」である。

その部屋で、陛下は回ってきた書類にご認証とあれば「認」、ご裁可とあれば「可」、ご覧とあれば「覧」の判を朱肉で押し、サインが必要なものには「徳仁」とサインを入れる。別項で書いたように、国璽や御璽が必要なものがあれば、別室で侍従が押す。

ご裁可を拒否され「否」の判が押されたり、サインを拒絶されることはあるのだろうか? 実はこれは想定されていない。

表御座所にはかつて香淳皇后が絵を描いたりした「桐の間」、両陛下のための談話室「芳菊の間」、食事などをされるのに使われる「萩の間」。

「鳳凰の間」は拝謁用で、侍従長や宮内庁長官の話はここで聞く。総理大臣、各大臣の内奏もこの部屋で行われる。「薔薇の間」は皇居にやってきた皇族の休憩所、「花の間」は皇后の接客用の部屋、「桂」「雪」「月」は外来者(拝謁者)の控室である。侍従たちと会食するときは「連翠の間」。部屋数が多くて混乱しやすいが、図に示すと次のようになる。


3 件のコメント

  • 初めて拝見しました。興味深く拝見しました。
    大変失礼ですが結婚式場みたいな間取りと名前ですが、きっと式場が真似をしたのでしょうね。

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  • 近年まであまり皇室に興味を持っていませんでしたが、最近天皇皇后両陛下や敬宮愛子様の雰囲気を尊敬するようになりました。

    お仕事の様子を詳しく教えてくださり、ありがとうございます。法律の決裁にサインされるなんで、お仕事とても多いと思います。
    一般のお仕事なら体調不良などの場合、代理者がいますが、皇室ではどうなんでしょうね。また教えて下さると有難く思います。

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    ABOUT US

    稲生雅亮
    元時事通信社編集委員、宮内記者会会員。明治大学卒業、時事通信社東京本社入社。大阪、千葉、岩手など地方支社局勤務の後、昭和48年本社に、同年宮内庁担当。昭和52年編集委員に。平成8年退社まで宮内記者会会員。昭和天皇崇敬会会報『昭和』に定期執筆。そのほかに、人物往来社や秋田書店などの皇室専門書を執筆、テレビの皇室特別報道番組、新聞、雑誌座談会など活動は多岐にわたる