監修/稲生雅亮
菊の御紋か定まったのは大正時代
世の中には変人もいるもので、皇居のある千代田区千代田一番地に住所を持ったり、美智子さまや雅子さまの名前を商標登録するような人間がいる。
ご成婚や即位となると、“あやかり商法”がわんさと出る。あの菊のご紋をパロってしまう業者もいて、なかなか商魂たくましい。
菊の花が天皇家の紋章になったのは、後鳥羽天皇の頃ではないかといわれている。天皇が菊をたいへん愛好し、文様を輿や車の飾りにしたり、公家たちが次第に菊を文様に使うのを遠慮し始めた。なお後鳥羽天皇は、自作の刀剣にも菊章を刻み、その刀は菊御作・菊作太刀と呼ばれたそうだ。それが積もり積もって、天皇家の紋として定着したというのである。
だいぶ下って、維新の頃に、徳川慶喜追討の官軍に菊の紋章を使うことを許したり、天皇家以外の濫用を禁止したりの措置があった。さらに天皇家と親王家でも菊の葉の数を区別するようになった。前者は16葉、後者は14葉ないし15葉以下または裏菊と定まった。
これが制度として確定したのは大正15年10月21日の「皇室儀制令」からである。戦前・戦中は皇室の御威光にあやかる濫用を抑止するため、皇室以外が菊の御紋を使用することはできなかった。戦後になると禁令は廃止され、暴走族も好んで使用しているようである。なお菊花紋章を商標法などに登録することはできない。
また菊章といえば「十六葉八重表菊形」が有名であるが、皇室でもこれを利用できるのは天皇家だけである。親王家は「十四葉一重裏菊形」を使うのが正式なスタイルだ。
天皇家→十六葉八重表菊形(図1)
親王家→十四葉一重裏菊形(図2)

なお皇嗣家となった秋篠宮家は、皇太子待遇であるから十六葉八重表菊形(図1)を用いている。
この紋章が「恩賜のタバコ」であろうとご料車(天皇の乗る特製列車)皇家に関連した物にはすべて入っていることになる。冒頭に商標登録の話に触れたが、商標法では「菊花紋章」は商標登録できないとされているだけで、登録しないで使用することは原則的には禁じていない。それでも十六葉が危ないなら、十二や十三で商売しようと考える輩がいることは確かである。
「天皇のハンコ」の重さ3.5kg!
菅政権にかわり脱ハンコ化が進んでいる。かつては職人芸でつくられたハンコも、いまや3Dプリンタで同一のものが誰にでも作れる時代になってしまった。だがこの世の流れに逆い、天皇家にとって「ハンコ」は極めて重要なものだ。
先の「即位の礼」で、「剣璽等承継の儀」というのがあったのを覚えているだろうか。宝剣と神、国璽は三種の神器のうちの2つで、皇位継承には無くてはならないものとされている。
この2つは、平成であれば吹上御所の寝室の隣、令和の新天皇であれば赤坂御所2階の専用の部屋。ちなみに爾とは玉のことである。
ほかに新天皇に継承されるものに「御璽」と「国璽」がある。中国では皇帝の証として「玉璽」と呼ばれるハンコが代々受け継がれていたが、日本もこの伝統を受け継ぎ、天皇には天皇専門のハンコがあるのだ。「御璽」は天皇のハンコ、「国璽」は国家を表すハンコである。どちらも明治7年の安部井櫟堂作で、純金製。なんとその重さは3.5キログラム。現在、両者の保管は侍従職が行っている。
御璽、国璽が必要な文書には以下のようなものがある。
【御璽「天皇御璽」】詔書、法律・政令・条約などの公布文、条約批准書、大使・公使の信任状と解任状、全権委任状、領事委任状、外国領事認可状、認証官の官記・免官辞令、4位以上の位記
【国璽「大日本国璽」】勲記

これらは天皇自らが押すのではなく、侍従が代わりに押すことになっている。ハンコの重量は3.5kgもあるため、かなりの重労働だと聞いている。なお、けっこう使用頻度が高いので、天皇が御用邸に行くときは、一緒に持参することになっている。
ちなみに「剣璽」はどうするかというと、基本的には決まった場所においておく。御璽・国璽と違って、いつも使うものではないからである。ただし、即位の一連の儀式では天皇のそばに置かれ、伊勢参拝にも持って行かれた。地方へは16年ぶりの移動であった。侍従が肩からかける専用の革の入れ物に入れて運んだ。
参考資料:皇室事典編集委員会『皇室事典——令和版』角川書店、2019、稲生雅亮 『そこが知りたい! 皇室探検』新森書房、1993
3.5kg…超小型犬より重いって凄いですね…大事なものは重いってことですね。
ちなみにうちの犬は狆のくせに8kgもあります。
持っていないが故の素朴な質問なのですが。
パスポート表面の菊の紋はどういったものでしょうか。また、今もあるのでしょうか。ついでに、どんな意図を踏まえてパスポートに菊の紋があしらわれるようになったのでしょうか。
約50年、国内引きこもりの私に教えてください(笑)。
16枚の花弁のみで一重(裏なし)ですな。菊というよりコスモスみたいな感じ。
ありがとうございました!